日本の伝統建築といえば、その中に「瓦屋根」というものがありますね。特に西日本に住んでいると当たり前のように目にする瓦屋根の光景。実はこの瓦を扱う職人さんが高齢化しており、若い人の参入もあまり見られないという事態が起きています。建築は、最新の技術や素材を使ってどんどん効率化されるとともに、一方で伝統的な建築方法を守っていくという考え方もあります。そんな瓦屋根には一体どのような歴史があり、どのような特徴があるのでしょうか。
瓦ってなに?
目次
そもそも、瓦とは一体なんなのでしょうか。瓦は、「粘土を素焼きしたもの」を指しており、この素材を利用した屋根を瓦屋根といいます。これが、元来の意味なのですが時代を重ねていくうちに、瓦屋根の素材も変わっていきます。例えば、金属・セメント・ガラスなどその素材は様々で、これは粘土を使ってはいませんが、形状が瓦であるため金属瓦・セメント瓦・ガラス瓦などと呼ばれています。
瓦屋根の歴史
瓦屋根というのは、今でこそ長い歴史の中で日本の伝統家屋を象徴する部分ではありますが、元々はその建築方法も外国から輸入したものになります。かつて、仏教などと一緒に渡来人によって伝えらえたという記述が残されています。この時、瓦屋根は百済という国から日本に伝えられ、飛鳥寺というお寺の建築の際に使われました。実はこのお寺今もしっかり残っています。ですから、飛鳥寺の瓦屋根は日本最古の瓦ということになりますね。このように、元々は寺院などを中心に瓦が用いられていました。それが、徐々に別の建物にも広がっていきます。
明治時代になると、ヨーロッパからも様々な形状の瓦が入ってくるようになります。また、従来の瓦が「引掛浅瓦」という瓦に変わっていき、これがかなり広範囲に普及していくことになります。こうした名残もあって、西日本では今もしっかり瓦屋根の家屋がたくさん残っていますね。一方で、どうして東日本で瓦屋根が少ないかと言いますと、寒い地域では、粘土製の瓦に含まれる水分が凍結するなどして破損が多くみられることや、積雪の関係であまり普及しなかったのです。このため、西日本と東日本では家屋の屋根に違いがみられるわけですね。
かなり古い時代から用いられている瓦はその歴史が3000年程度もある、今も大切にされている建築様式なのですね。
フランス製の瓦
ちなみに、先ほどヨーロッパからも瓦が入ってきたという話をしましたが、瓦はアジアなイメージですよね。ヨーロッパでも瓦が使われていたということをみなさんご存じですか?こちらの写真はフランスの街並みの写真です。ご覧のように、屋根には瓦が用いられていることがわかりますね。日本の寺院などとはちがって、赤くて鮮やかな色をしています。これが、明治時代に日本に入ってきたフランス瓦と呼ばれる瓦です。この色の違いは、焼き方の違いによるものだとされています。瓦の焼き方には、2種類あります。還元焼成と酸化焼成です。フランス瓦は酸化焼成という焼き方で焼かれています。今は、フランス瓦を基にして作られたF型瓦という瓦が使われています。この瓦は波打つような形ではなく、平坦で、並べても比較的まっすぐなラインで屋根を仕上げることができます。
スペイン製の瓦
フランス製の瓦がF型瓦として今も日本で使われていますが、スペイン製の瓦も明治時代に日本に入ってきました。これは、現在S型瓦と呼ばれており、こちらは波打つような形で瓦らしい曲線の美しさが魅力的な瓦屋根になります。
瓦屋根の種類
瓦には様々な種類があります。ここでは製造方法による分類についてご紹介していきます。
<釉薬瓦>
釉薬(ゆうやく)というのは、ガラス質の薬のことを指します。これを塗ってから瓦を焼くことで、表面が陶器のような質感に仕上がるのです。
<いぶし瓦>
この瓦は、瓦を焼き上げたあとにさらに「いぶす」という工程を加えます。こうすることで、表面を炭素の膜で覆うことができ、銀色に違いつやを表現することができるのです。
<練りこみ瓦>
これは、通常粘土を使って瓦を造っていきますが、その中で二酸化マンガンなどの金属酸化物を練りこんで焼き上げる瓦のことを指します。こうすることによって、金属酸化物そのものが独特の発色をし、焼きあがった瓦は単色ではなく、金属酸化物の色を含んだムラのある仕上がりとなります。
<素焼瓦>
基本の製法で、粘土をそのまま焼き上げて作る瓦のことを指します。ヨーロッパから入ってきた瓦の製法は、基本的に素焼きとなっています。赤く発色する素焼瓦は、沖縄などでよく見られますね。
<ガラス瓦>
これは文字通り、ガラスでできた瓦のことを指します。従来の瓦とは異なった雰囲気で、素敵ですね。これは、基本的には屋根全体に使うというよりは、部分的に使うことが多いです。ガラス製ですので、天窓のような用途で使うことになります。この部分から、住宅に光を取り入れることができますし、天窓のような雨漏りの心配もありません。
瓦屋根の特徴
瓦屋根のイメージといえば、
「修理が大変そう」
「地震の時にたくさん割れそう」
などと、マイナスなものが多いですよね。ですが、実は瓦屋根にはたくさんのメリットもあるのです。一つ一つ見ていきましょう。
<耐久性が高い>
実は、簡単に割れてしまいそうに見える瓦は、耐久性が高いことで知られています。もちろん、大きな地震はヒビ割れや破損の原因とはなりますが、一方で紫外線の影響を受けにくいことや、色あせ・錆などの表面の腐食などには強いとされています。
<断熱性に優れている>
瓦屋根は、必然的に屋根の下地部分と瓦の間に隙間が生まれます。この空気層によって、外の熱が内側へ伝わりづらい構造になっているのです。ですから、暑い夏場でも暑い外気を遮断してくれる効果があるのです。また、この空気層のおかげで湿気がこもりにくいということもあり、梅雨でもじめじめせずに家で過ごすことができます。一方で、冬は結露が起きにくいという利点もあります。
<デザイン性に優れている>
最近では、古民家風の家を建てることも増えてきており、伝統的な日本家屋を表現するという点でも、瓦のデザイン性は非常に優れています。形や色も豊富なので、好んで使う人もいますね。また、瓦は一枚一枚分離しているので、もしも破損した時などは部分的に交換したり修理したりすることが可能です。
瓦は本当に地震に弱いの?
地震大国日本では、近年の家屋の耐震性は非常に高いものになっています。一方で、伝統的な家屋である瓦屋根は地震に弱く、壊れやすいというイメージが強いですよね。それって本当なのでしょうか?実はこのイメージは、阪神淡路大震災などの大きな地震の際に流れるニュース映像で、散乱した瓦が多かったということによってついたイメージなのです。よくよく考えてみて欲しいのですが、そういった地震の時に散乱しているのは、瓦だけではありませんよね。家屋そのものが倒壊していたり、地盤が崩れていたり、瓦屋根だけが破損している状態ではないというのがわかると思います。ですが、映像や写真ではたくさんの瓦が散乱している印象が強く残るため、「瓦は地震に弱い」というようなイメージにつながっていったのです。このイメージの先行により、瓦屋根を携えた家屋というのはかなりの割合で新規建築が減っていきました。実際には、瓦自体はその重さで家屋倒壊を引き起こすということはなかなかありません。現在では、新しい素材による瓦の開発もありながら、実代耐震実験などによって、瓦屋根は阪神淡路大震災程度の地震なら耐えられるという結果を残しています。
最新の瓦はここがちがう!
先ほど、新しい素材による瓦の開発がなされている話をしましたが、一体どのような瓦なのでしょうか。
<防災瓦>
実は、先の地震に弱いというイメージを一新するような防災用の瓦というのも普及しています。これは、従来の瓦とちがって、瓦どうしがフックやジョイントなどによってくっつくような仕組みになっています。このため、台風などの強い風が瓦同士の隙間に入って、瓦が飛ぶという心配が減るというのが大きなメリットです。
<軽量瓦>
また、これまでの素材とは異なるかなり軽い素材による瓦も開発されました。そもそも、瓦の重さによる建物の倒壊などは迷信であるということは実験で証明されていますが、軽くて丈夫なら、そちらの方が安心感はありますよね。従来の瓦は、1枚約3㎏程度だとされています。これに対して軽量瓦は、2.2~2.5キログラムにまで軽量化されています。なんだ、たかが800gや500gの話かと思われるかもしれませんが、これが屋根一つ分ともなると、合計1t程度も軽くすることができるのです。屋根が1tも軽くなるなんて、すごいことじゃないですか?
<瓦っぽいガルバリウム鋼板>
瓦風のガルバリウム鋼板というのもあります。そもそもガルバリウムこというのはアルミ・亜鉛・シリコンという素材を組み合わせて作った金属の一つです。この特徴は、錆などの腐食を防ぐ耐久性の高さにあります。20年以上も錆を防ぐことができるという謳い文句で、通常の屋根の素材としてもよく使われています。また、金属でありながら軽い性質であるため、重さによる不安は一切ありません。これを、瓦風にアレンジして施工するという例も近年増えてきています。粘土製ではないので、一つ一つを職人が加工する手間もありませんし、瓦屋根の特徴的な波打つ日本家屋の良さというのも表現することができます。最新技術と伝統技術の掛け合わせというのもまた風情がありますね。
まとめ
今回は、瓦の歴史と種類についてお伝えしましたがいかがだったでしょうか?
瓦は日本の伝統的な建築部材と思われがちですが、元々は外国の文化だったのですね。それが日本のものとしてどんどん変化していったわけです。そうして、今となっては日本を象徴する建築文化の一つとなっています。最新の素材との組み合わせにより、将来的な有用性も期待されますね。