わたしたちが知らない、水中溶接の仕事
前回、夢のような「水中都市」の建築がすでに計画されているというお話しをしました。現在もそうですが、建築の世界は陸上だけでにとどまらず水中にまで及んでいることを改めて確認できたかと思います。今回はさらに、水中建築の中から「水中溶接」についてピックアップしてご紹介していこうと思います。
水中溶接ってなに?
目次
水中溶接と聞いて、まず考えるのは「え?水中で溶接なんてできるの?」ということではないでしょうか。特に溶接機を用いるのであれば、感電するのでは?と心配になる方もいらっしゃると思います。まず水中溶接というのは、海や河川などの水中で行う溶接作業のことを指します。そして、実際にこの作業に従事している人はたくさんいるのです。
水中で行われる溶接は、陸上で行われるのと同様に「アーク溶接」と呼ばれる手法を用います。これは、放電現象を利用して金属同士を接合する溶接方法なので、放電を思い浮かべると感電の心配を出てきますよね。この辺については後ほどご説明します。陸上で行われるアーク溶接とちがって、水中でアーク溶接を行う場合には、接合部分の温度が下がってしまうとういことから、溶接の強度が低くなってしまうという傾向があります。このため、細い溶接を並べて行っていくことで強度を下げないように対策するのが一般的な手法です。
どんな場面で使うの?
例えば、プール・水族館などの娯楽施設、そして橋や船などを造る際に水中溶接は用いられます。また、海上空港や海底トンネルなどの大型の施設を造る際にも必要となってきます。やはり水に関係する建築物や構造物を造る際に、水中溶接が必要となってくるんですね。実は、わたしたちの生活に密接に関わる建築物を建造するために用いられているのがこの水中溶接なのです。
水中溶接の種類
水中溶接は基本的に3種類に分類することができます。今回は簡単にご説明していきます。
<湿式溶接>
防水被覆した溶接棒を用いて、作業者が潜水して溶接する方法。溶接部分が水中に露出している場合に多く用いられる。例えば、建造物の劣化や破損の修理といった作業の時が多い。ただ、作業環境が水中であり、水質も良いところではないことが多いため視界不良が多く、作業の際にはかなりの熟練度が必要となる。また、経済的ではあるが作業者への負担が大きく安全性も低いとされている。
<乾式溶接>
溶接部分を容器などで覆うことによって、その容器の中を気体で満たして溶接する。陸上と同じ条件での溶接ができるため、強度の高い溶接が可能。乾式溶接の中でも、ハイドロボックス方式・水カーテン方式・ワイヤブラシ方式などの様々な方式がある。湿式溶接に比べて経済的コストがかかることと、作業の安定性が低いことが課題。
<大気圧下溶接>
船から大型の容器を降ろし、溶接部分を囲んで中の水を排除することで、作業者がダイビング装備などを用いずに作業に従事することができる。ただし、水圧などの作業環境に耐えうる容器を準備しなければならず、容器の安全性が確保されなければ作業者も危険にさらされてしまう。
<高圧下溶接>
船からチャンバーと呼ばれる釣鐘上の容器を降ろし、水を排除するがその中で水深に相当する高圧ガスの環境下で溶接を行う。高圧下溶接は、さらにハビタット溶接とドライチャンバ溶接という手法に分類される。
危険性が高い仕事
さて、先ほど感電するのでは?という心配の話をしましたが、確かに水中溶接の際に感電による事故も起きてはいますが、基本的には電圧の低い直流アーク溶接機を用いるため、理論的に感電が起こることはないとされています。ただし、例えば陸上用の装備で陸上のアーク溶接をしている最中に、溶接機を持ったまま海に落ちれば感電死します。陸上で使う交流アーク溶接機は水中で使う直流アーク溶接機の6倍の電流が流れます。当然そういった作業環境の場合、安全配慮がかなり重点的に行われるとは思いますが、基本的なこととして知っておいた方が身を守ることにつながるでしょう。
話は戻りますが、そういった感電の危険性は低いものの、潜水という特殊な技術を用いることが前提であり、水中環境は陸上とちがって様々な危険をはらんでいます。もちろんボンベに関することもそうですが、水圧などの関係から高気圧障害の危険性もあります。こうした危険度の高さや、技術的な難しさから水中溶接に従事する人の年収は建築業界の中でも高い方に位置付けられています。年収1000~1500万円とも言われており、技術を磨いていいけば相応の対価を得ることにつながっていきます。
水中溶接の資格
前回の記事でもお伝えしたように、水中で作業をする場合には潜水士の資格が必要となります。水中溶接に従事する場合も同様で、潜水士の資格が必要です。また、溶接に関する資格として「アーク溶接作業者」の資格も必要となります。これらは、以下の記事で紹介しているので、ぜひご一読ください。
水中都市建築に関わりたい!水中掘削には「潜水士」の資格が必要です。
アーク溶接と特別教育
まとめ
今回は、日常生活の中でもなかなか知ることのできない「水中溶接」についてご説明しましたが、いかがだったでしょうか。前回に続き、建築業界は水中にも広がっていることがわかりますね。このように見ていくと、建築業界での仕事はわたしたちが想像している以上に広いのだと再認識させられますね。