なぜダムは必要なのか!豪雨の際のダムのはたらき
前回、ダムに関わる資格についてお伝えしましたが、ダムそのものに関してはあまり詳しく触れませんでした。ダムの役割は基本的に、
・治水
・流水の正常な機能維持
・利水
・発電
この4つの役割に分類することができます。今回は、なぜダムが必要で、最近話題になることが増えた豪雨の際にダムはどのように機能するのかとういことについてご説明していこうと思います。
西日本豪雨の緊急放流は適切だったのか
さて、まず今回のダムの話をする前に、2018年に起きた西日本豪雨についてご説明しなければなりません。なぜなら、この時ダムの緊急放流が一般市民の間でも賛否両論の物議を醸したからです。ダムについての基本的な知識がなければ、これについての賛否も判断することはできないでしょう。
<西日本豪雨の概要>
2018年6月28日から7月8日にかけて西日本を中心に起きた集中豪雨のことです。この豪雨は、西日本が中心ではありましたが、北海道地方や中部地方にもその影響が見られ、非常に広範囲かつ長期にわたって被害をもたらしました。これは、台風7号や梅雨前線などの影響で起きたと言われています。
7月6日の時点で、長崎・福岡・佐賀で大雨特別警報が発表され、そのあとすぐに広島・岡山・鳥取、少し時間を空けて京都・兵庫にも同警報が発表され、1日の間に8府県で大雨特別警報が発表される事態となりました。さらに8日には、高知・愛媛も加わったことで史上最多となる11府県で同時に大雨特別警報が発表されたことになります。
この豪雨によって、河川の氾濫や浸水害、土砂災害が発生しました。また、200人の死者が出るなど、非常に大きな災害となりました。
ちなみに余談ですが、気象庁はこの災害を「平成30年7月豪雨」と名付けているのですが、一般的には西日本豪雨と呼ばれており、そちらの方がメジャーとなっています。
この年の7月下旬には、台風12号によってさらに被害を受けたこともあり、トータルの死者数は263人にものぼっています。
<豪雨の中行われたダムの緊急放流>
さて、これが今回のテーマです。前回お伝えした、ダムの管理業務の中にもありましたが、ダムは流れる水の量を調節するためにあります。これをコントロールするのが、ダムに関わる人たちの仕事でした。通常、雨の日は水量が多くなるので一般人からすると流れる水の量を少なくする操作を行うと想像しますよね。ところが、西日本豪雨の際には「ダムの緊急放流」が行われたので一般の人たちの間でも、「なぜそんなことをするんだ!」と話題になったわけです。実は、水量があまりに増えた時、ダムの水量を減らす操作が行われるのは決して間違いではないのです。なぜなら、ダムに容量以上の水が溜まってしまうと、ダムから水が溢れ出してしまうからです。そうなれば、その水の重さによって施設自体が壊れたり、ダムのコントロールができなくなるような損傷が起きたりしてしまう可能性があるというのです。これを防ぐためには、一時的でも水を放流しなければなりません。これが、西日本豪雨の際に起きた「緊急放流」の理由です。ところが、愛媛県でのダム緊急放流の直後、放流によって9人が命を落としています。この緊急放流では、通常時の6倍の水を放流しています。これによって、ダム下の川が氾濫してしまったのです。この時の流れとしては、
・5:20に避難指示
・6:08に緊急放流を通知
・6:20緊急放流
となっており、非常に短時間の間に緊急放流が行われたことが問題であったと指摘されています。1時間程度では全住民が安全な場所に避難することは難しいですよね。ですが、これに対してダムの緊急放流を行なわなければもっとたくさんの被害が出ていたという専門家の意見もあります。そして、国はこの被害を想定して放流を指示したのです。一番問題となったのは避難指示がきちんと住民に伝わらなかったことです。ポイントは、
・豪雨の中で防災無線による呼びかけをしても聞こえない。
・早朝の時間帯で多くの住民が寝ている。
・避難所開設から放流まで1時間しかない。
これらでしょう。亡くなった9人の方たちとその遺族は元より、住民たちにとっては「人災」と捉えても仕方のない状況が重なってしまったのです。ただ、実際に緊急放流をしなかった場合の被害は想像することしかできないですから、実際どうだったのか判断するのは難しいですね。
ダムは必要ないのか
こうしたダムの放流による事故や、ダムの建設中の事故というのは他にもたくさん起きています。こうした被害を懸念して、ダム建設地の住民たちのよってダム建設反対運動なども起きますし、「脱ダム」といってダムの危険性を説く人たちもいます。特に、2001年長野県知事だった田中康夫による政策「脱ダム宣言」は非常に大きな話題となりました。ダムの建設には当然、莫大な費用がかかりますね。建てる側はそうですが、それを請け負う側はダム建設は大きな利益を生む事業です。このため、ゼネコンなどと地方自治体の癒着の温床となっていたダム事業を中止することを宣言したのです。当時建設中であった、県内のダムの工事は中止となり、計画されていたダムも建設が遅れました。この波に乗って、全国各地のダム建設反対運動は激化していきます。一方で、ダム建設を望んでいた流域住民たちもいました。浅川ダムといって、住民たちはダムによる治水を待ち望んでいたのです。
こうして、長野県内のダム建設は遅延していきましたが、ちょうどこの後2006年に豪雨災害が起きます。死傷者が出る大災害となりました。結局、ダムがあれば防げたであろう被害も、ダムの建設遅延によって防げなかったとされています。これを考えると、予期できない豪雨災害を最小限に食い止めるためにも、ダムは必要なのではないかと考えさせられます。本当にダムは危険で、必要ないのでしょうか?
この動画は、新潟県の笠堀ダムと大谷ダムの紹介です。ダムの大きさがよくわかります。
ついに完成した八ッ場ダム
ダムといえば、よく聞く「八ッ場ダム」について最後に触れておきます。これ、「やんばダム」と読みます。このダムは、利根川の支流に関わるダムで、群馬県吾妻郡長野原町川原場というところに建設され、2020年4月1日から運用されています。このダム、建設計画が立ち上がったのはなんと1952年。実に、68年の歳月を経て運用に至っています。完成に至るまでには、多くの建設反対運動が起き、2009年には前原誠二国交相によって建設中止が表明されています。ところが、紆余曲折を経て結局工事を再開し、今年ついに運用開始されたのです。
この場所はもともと集落がありました。このダムの建設のために解体され、更地にされたのです。800年の歴史ある温泉街であった川原湯温泉。今はもうダムの底に沈んでいます。ここに住んでいた住民たちは、移動を余儀なくされ国が用意した別の地域に移動しましたが、「現地再建方式」と言って、自分の持っていた土地を国に買い取ってもらい、新たに移動先の土地を買う方式がとられました。ところが、移動先の土地は良心的な値段ではなく、結局その地に根を下ろしたのは400世帯あったうちの94世帯のみです。
わたしたちの暮らしを安全・安心できるものにするため建設されるダム。しかし、その建設地には古い歴史があり、先祖代々から受け継いだ土地があり、故郷として愛していた人たちが、それを根こそぎ失ってしまうということも起きているのです。そのことをわたしたちは忘れてはいけません。