その発想はなかった!断熱材にゲル?エアロゲルってなに??
断熱材というと、ウレタンや発泡スチロールのような軽い素材のイメージがありますよね。現在では、素材の種類がかなり増え、断熱性がぐんと上がってきています。しかし最近、想像もしなかった素材を断熱材として使おうというチャレンジをしている企業があるということをご存じでしょうか?今回は、エアロゲルを利用した新しい断熱材についてご紹介していきます!
エアロゲルってなに?
そもそも、エアロゲルってなんなのでしょうか?
説明するのが少し難しい素材なのですが、まずこれは1931年にスティーブン・キスラーという人によって発明されました。戦前ですので、結構昔ですよね。この発明の経緯が面白くて、元々はゼリー内に含まれる水分を収縮させることなく、気体にすることができるかという課題への挑戦なんだそうです。
エアロゲルには、3つの種類があります。シリカエアロゲル・カーボンエアロゲル・アルミナエアロゲルです。シリカゲルというと聞いたことがありますよね、それはシリカエアロゲルと同じです。シリカエアロゲルの特徴は、半透明・超低密度・高い断熱性です。
シリカエアロゲルは研究が進んでいなかった!
シリカエアロゲルは先程上げた3つの特徴から、かなり色々なことに使えそうな感じがしますよね。住宅の断熱材への利用もそうです。誰でも思いつきそう。でもできなかったのです。なぜなら、シリカエアロゲルを作るためには「超臨海乾燥」という工程が必要となるからです。超臨界乾燥とは、超臨界流体を使った乾燥技術のことを指します。超臨界流体というのは、高い拡散性・溶解性によって表面張力が働かないという特徴を持ちます。専門的過ぎて何を言っているのかわからないと思うのですが、この超臨界流体を利用してある物質を乾燥されることで、乾燥試料の液体構造を保ったまま乾燥することができるのです。難しい話ですが、超臨界流体というのは結構身近にあって、二酸化炭素などが該当します。エアロゲルはこのよくわからない方法によって作られるのです。
超臨界乾燥を行ってシリカエアロゲルを作るためには、「超臨界乾燥装置」という装置が必要で、これが非常に高価なものなのです。つまり、シリカエアロゲルを作るには相当なコストがかかるということです。これによって、シリカエアロゲルを利用した商品の開発というのはなかなか進んでいませんでした。また、コストの問題だけでなく材料となるシリカの特性上、水に弱く脆いということがあり、いくら断熱性が高いとは言えそうしたものを住宅建材に使えるかという問題もあったのです。
ちなみに、超臨界乾燥について詳しく知りたい方は、こちらの動画を参考にしてみてください。
日本での挑戦!シリカエアロゲルを断熱材へ
さて、こうした課題を抱えながらも、シリカエアロゲルを断熱材として量産しようという試みを行っている会社があります。それが、ティエムファクトリ株式会社です。この会社は2012年に創業したベンチャー企業で、素材研究・開発を中心に事業に取り組んでいます。
ティエムファクトリ株式会社公式サイト
先ほど言ったように、シリカエアロゲルを作るためには超臨界乾燥という工程が必要でした。しかし、京都大学との共同研究のもと、なんと常圧で乾燥させて作れるエアロゲルを開発することに成功したのです。しかも、このエアロゲルは撥水性を持つというのですから、まさに断熱材にうってつけですよね。そして心配されていた脆弱性ですが、弾力性のアップによってこの課題もクリアできそうです。この新しい素材は、「SUFA(スーファ)」といいます。その断熱性能は、前回の記事でも出てきたグラスウールのなんと約3倍!しかも密度が1㎥あたり0.11~0.12gと非常に軽いのです。ますます、建材向きですよね。さらに大きな特徴は、かなり透明度が高いという点です。これの何がすごいかというと、通常の住宅断熱材として利用する場合はその特徴を発揮しませんが、透明度の高さから窓ガラスなどにも利用できるのです。住宅の場合、冷気の侵入は基本的に窓やドアです。特に窓から入る冷気によって、室内の温度は下がってしまいます。しかし、SUFAは窓ガラスの断熱にも応用できるため、その冷気を遮断することが可能となるわけです。これって画期的ではないでしょうか?
新素材と研究と建築
このようにして、新素材の研究という観点から建築にアプローチするという方法があります。エアロゲルを使った研究についてはお伝えしましたが、こうした新素材による建材への応用研究はあちこちで行われています。一体どんな素材の研究がすすめられているのでしょうか?
<ボタニカルコンクリートでエコ住宅を>
ボタニカルというと、最近よく聞くのはシャンプーなどの美容品でしょうか。この意味は、「植物性」です。ボタニカルコンクリートは、直訳すると「植物性コンクリート」となります。一体どういうことなのでしょうか?実はこれ、コンクリ―の破片や瓦礫と廃木材などを原材料として、再構築したタイル状の建材なのです。コンクリートを再利用するという話はどこかでしたかと思いますが、これに木材を混合することによって木材のある成分が接着剤として働くのだそうです。これによって、化学物質を使わなくても原材料を一体化することができる上、自然にも返ることができるのだそうです。そういえば、コンクリートはその製造過程からかなりの二酸化炭素を排出するということを既にお伝えしていましたね。エコという観点からも、なんとか従来のコンクリートの消費量を減らしたいわけです。その点、このボタニカルコンクリートは廃材を使うという点でも、自然に返るという点でも非常にエコであることがわかると思います。
実は、廃コンクリートは1年間に約3500万トンもの量が発生しているのだそうです。これをリサイクルするにあたって、その使い道はほとんどが道路の下に埋められるだけなんだそうです。ただ、埋めているんですね。これでは、本当の意味でのリサイクルにはなりません。そこで、廃コンクリートを本当の意味でリサイクルするためにこの研究が行われたのだそうです。既に、ボタニカルコンクリートは完成していて、3年後には市場への進出ができるように詰めていくそうです。これが、下記の方たちによって2020年2月に発表されています。
・東京大学生産技術研究所 酒井裕也 講師
・バイオアパタイト 中村弘一 社長
・大野建設 大野治雄 社長
共同研究によって、こうした新素材も続々と誕生していっているわけです。
まとめ
前々回の記事に関わりますが、2030年までにパリ協定で合意した数値目標を達成するためには、様々な方面からのアプローチが必要不可欠となります。省エネ基準を満たすためには、エネルギー効率の良い設備の開発も必要ですし、こうした新素材の開発と一般化によって、住宅建材そのものをエコなものに置き換えていく必要もあります。このようにして見ていくと、建設業界は常に科学の進歩に支えられていると共に、建築そのものが科学の進歩を後押ししていると言っても過言ではありません。ここで紹介した、SUFAやボタニカルコンクリートの他にも、まだまだたくさんの新素材が可能性を秘めています。今後そうした分野にも目を向けて見ると面白いかもしれないですね!